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試してみて!見て聞いて!ブログ:2016-08-30

「ごま漬けに酢は入れんのかい?」
それはママの認知症を決定づけた一言だった。

姉貴やいもうとからは、
最近ママが少しおかしいと聞いていたが、
遠く離れたオレは、あまり気にもとめていなかった。

九十九里の名産であるごま漬けは、
小指程度の小さな背黒イワシを丸ごと、
頭と内臓をひとさし指でキュッと取って、
塩水に一晩、酢水に一夜つけ…

一段ずつ、きれいに並べ、
ゆず、はりしょうが、ごま、とうがらしの輪切と順番に振り、
一段、又一段と、気の遠くなるような作業を繰り返し…

そして
しばらく置くと、
子供もお年寄りも骨ごと食べれる
イワシのごま漬けの完成となる。

ママの味はどんな有名な店のものよりもおいしく、
母親自身もそれをわかっていた。
だから俺が実家へ帰るからというと
必ず手土産にと作ってくれておいた。

いつ頃からか少し味がかわってきて…
ん?何かが違うという感じが、現実のものとなったのだ。
50年やってきた当たり前が、母親の記憶から消えた。

たばこの自動販売機に古い500円札を入れて
入らないと泣きだしそうになったり、
お札に火をつけて燃やしてしまったり、
母の中で一体何が起きているんだろう?

お父さんが亡くなって七年、
独りで淋しかったんだね…ごめんね…

今はまだ、
母親の中にあたくし達はいるんだろうか?
わたくし達の笑顔はお母さんに届いているんだろうか?
あたくし達の想いは…

忘れんぼうになったお母さんは
「ありがと」「ありがと」とそればかり…
もういいよ。

母のシワシワになった笑顔の中に
おれ達がいつまでもいられますように…

「ありがとう」は、ボク達の方だよ。

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